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1章
十何年ぶりかで母の夢を見た。
白いワンピースに帽子、ハイヒールをカツカツならして、逃げるように、スーツケースを転がしながら坂を下っていった。私は一生懸命、母をおいかけた。
(お母さん、どこいくの、お母さん、待って)
母はしばらく私の声に耳すら傾けなかったが、ようやく止まった。
(お母さん)
(しーちゃん)
(どこいくの?すぐに帰ってくる?)
(しーちゃんがおばあちゃんの言うことをよく聞いていい子にしてたらね)
(ほんとうよ。教えてあげた手鞠唄、さびしくなったら、あれを歌いなさい。いいわね)
(うん)
結局、母は六歳の私を祖母に預けたまま、一度も迎えには来てくれなかった。
あれから二十年、私は祖母に育てられて大学を出て、今はマスコットをはじめとした手作り品からパッチワークを手がけている工房に勤務している
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