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「不条理よね」
不意に隣から彼女の声が聞こえた。
彼女の声はその不条理に嘆くでもなく、憤りを感じている風だった。
「確かに不条理だね」
そう僕も返して、果たして不条理じゃないことなどこの世にはあるのだろうか、とそんなことを思った。
彼女を渦巻く環境は、周りから見れば条理、道理に見えたとしても、彼女はそれを不条理と呼ぶ。きっと周りからすれば彼女が言っていることは不条理だと思われるだろうし、しかし僕は彼女が言っていることが不条理だとは思わない。
卵が先か鶏がさきか、要は僕にとってそれはどうでも良い話である。
それよりも、隣で横たわる彼女の体の震えの方が僕は気になった。
「どうして震えているの?」
僕の問いかけを聞き、彼女は暫く黙ったままでいると、ゆっくりと身体を反転させ、漆黒の瞳を僕のそれと合わせた。
その瞳は怒りを表しているように見えたし、悲しみを纏っているようにも見えた。
「恐ろしいからよ」
彼女の薄い唇はそれだけ言うとすぐに紡がれてしまった。
「そっかぁ」
僕もそれだけ言って仰向けになって目を閉じた。
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