**序章**

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 世界は魔法で満ちている。  森や湖、風や光、小さな野花や動物たち、そしてもちろん人間にも――生まれた場所や時によって、必ず魔法の力……魔力を持って生まれてくるという。  それは、大陸アトレイシアが、獣神族と呼ばれる竜によって創られたから。  竜は魔法そのものの存在であり、人に、言葉と智恵と魔術を授けた。  竜に選ばれし、初めの人の王が、古代王国を興してから、もう数百年。  精霊や妖精族は彼らの棲みかに身を隠し、滅多に人間の前に姿を現さなくなっている。そしてもちろん、竜も――伝説のおとぎ話に語られるその巨大で美しい存在も、昔の歴史書や古い絵巻き物のさし絵でしか、見られなくなっていた。  だが、たとえ姿が見えなくても、竜は大陸の何処かにまだ存在しているのだ。  なぜなら、世界には魔力が満ちているから……この世界を支えているのは、神にひとしい竜たちだから。  そして、その世界で、己が何者かも知らず、生きていく者たちがいた。
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