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「誰が一緒に行くか! 早く出発しよう、ランシア! 馬鹿がうつらないうちにっ!」
ランシアを急き立て、自分の馬車に、文字通り飛び乗るヒオウ。
ランシアは困った風に笑って、見送りの人々に頭を下げ、青い馬車に乗り込んだ。
「……相変わらず容赦ないなあ。でもそこが逆にいいからなぁ。心配しなくても、君のランシアを取ったりしな」
「黙れッ!!!」
すでに走り出した赤いホロ馬車の後部から、ヒオウが顔を出して怒鳴る。
首をすくめ、やれやれと苦笑してから、青年は見送りの町の人々に、優雅に一礼してみせた。
「では、春の精霊祭がつつがなく、終わるよう……」
何人かが、苦笑しながら手を振り、青年も馬車に乗り込んだ。
三台の馬車は、そうして、シザーク街道に走り去って行く――。
一路、魔術師の王都、エルンを目指し……。
その空に、暗雲が立ち込めているとも、思わず――。
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