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光が満ちた、夜の街中。その光は、夜空から照らす優しい光だったり、ネオンのような色彩豊かな光でもある。
そんな街中の光が届いてこないような、建物に囲まれた、薄暗い路地裏。そんな路地裏を、一人の男が息を切らせながらも走っていた。
男は顔中に汗を大量に浮かべ、かなり走り疲れていることがその顔からは窺えるのだが、そんなことは構わないといった必死の様子で、縺れる足ながらも前へと進んでいく。
その表情は疲労もあるのだろうが、それはほんの些細なことだと思っているのが分かるくらい、恐怖の方が色濃く出ていた。
男は大半が恐怖の色で染まっている表情ながらも、足を止めることなく背後へと振り返る。その光も届かない薄暗さからか、先は見えないのだが、人の気配はしない。
そのことに安堵し、男が一息つこうとしたその時、その路地裏の奥から一つの人影が現れたのだ。そして男は思い出す。その人影が人ではなく、化け物だということを。
「僕は」
「俺は」
「私は」
男がその人影を、恐怖で見開いた目で見つめるが、人影はただ小さく呟き、銃口を男に向けた。
「自分は、一体何なんだ──?」
鳴り響く一発の銃声。倒れる男には目もくれず、人影はただ、その答えを求めるように空を見上げた。
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