8人が本棚に入れています
本棚に追加
そして深琴は、若干寂しげに言う。
「と言っても私達には記憶がないんだけどね」
俺は口を挟もうとしたが、何も言えなかった。
ふいに感じた温かさ。
乙音は俺の手を握っていた。
繋いだ手から伝わる温かさは、確かに人と人とがふれあう感触そのものだった。
「霊力とは本来、あちらの世界に渡る為の力なの。渡る条件は、さっき言った通りよ。記憶がない私達には、霊力の使い様がないってわけ」
「だからさっきの炎が生み出せるってわけか?それが神のなんちゃらとどう関係あるんだ?」
「え~と、話しが急に変わるのだけど、この世界にも伝説とかがあるの」
「伝説って、トロイヤ戦争とかの?」
「そうよ」
そして深琴は、俺のいるベッドの下の方に腰を下ろした。
長く細い足を組み、腕組みをする。
「乙音、伝説だいすきなんだよ。おもしろいおはなしが、いっぱーいあるの」
「へぇ、そうなんだ」
「あのね、伝説って、神さまがいつもでてくるんだよ」
「乙音の言う通り、この世界の伝説は神が出て来るものがほとんどよ。死神は一度も出てきた試しがないけどね」
「……だって死後の世界だろ」
すると深琴は嬉しそうというべきか、憎たらしい顔で笑う。
「やっと、信じてくれた?」
.
最初のコメントを投稿しよう!