一章・死後の世界

16/19
前へ
/61ページ
次へ
そして深琴は、若干寂しげに言う。 「と言っても私達には記憶がないんだけどね」 俺は口を挟もうとしたが、何も言えなかった。 ふいに感じた温かさ。 乙音は俺の手を握っていた。 繋いだ手から伝わる温かさは、確かに人と人とがふれあう感触そのものだった。 「霊力とは本来、あちらの世界に渡る為の力なの。渡る条件は、さっき言った通りよ。記憶がない私達には、霊力の使い様がないってわけ」 「だからさっきの炎が生み出せるってわけか?それが神のなんちゃらとどう関係あるんだ?」 「え~と、話しが急に変わるのだけど、この世界にも伝説とかがあるの」 「伝説って、トロイヤ戦争とかの?」 「そうよ」 そして深琴は、俺のいるベッドの下の方に腰を下ろした。 長く細い足を組み、腕組みをする。 「乙音、伝説だいすきなんだよ。おもしろいおはなしが、いっぱーいあるの」 「へぇ、そうなんだ」 「あのね、伝説って、神さまがいつもでてくるんだよ」 「乙音の言う通り、この世界の伝説は神が出て来るものがほとんどよ。死神は一度も出てきた試しがないけどね」 「……だって死後の世界だろ」 すると深琴は嬉しそうというべきか、憎たらしい顔で笑う。 「やっと、信じてくれた?」 .
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加