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時同じくして、死後の世界の地図に載らない辺境の地。
雪は吹雪き、地面へと積もっていく。
半ば枯れ掛けのような針葉樹林が、最期の足掻きかと思えるような姿で並び、雪は容赦なくその上に降り掛かる。
山というよりは、崖を無理矢理に切り開いたような、荒々しい道を進む。
この雪道を行くには軽いと思える服装で、女は歩いていた。
美しい体のラインに沿った、スーツドレス。手には会社員のような、革の鞄をもっていた。
「視界が悪いわね」
特に誰に話すというわけでもなく、女は呟く。
そして、腰まで届く長い金髪を掻き上げるという、何気ない仕草をした瞬間。
ゴゴゴゴ──
地響きを轟かし、崖道に大砲が現れた。
錆こそついているものの、存在感と威圧感を示した、黒光りする大砲。
それは雪の吹雪く崖道には、有りもしない物だった。
名を『ラグラホルン』という、名にし負う宝の中の一つだった。
「発動」
女は、短く呟いた。
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