一章・死後の世界

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目を閉じながらも、鼻をツンと刺す薬品の匂いを感じた。 先程の暗闇とは違い、閉じている瞳にも光が見える。 ここはどこだ? 閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。 すると僅か20センチの距離。 俺の顔を美少女が覗き込んでいた。 「なななななな!?」 思わず叫びながら、俺は反射的に身を起こす。 けれどもその拍子、 「!」 勢いよく、その少女の額と俺の額がぶつかった。 痛てぇ…… 強い疼痛に痛覚を恨みつつ、相手を見る。 ソイツはしばらく額を押さえて悶絶していたが、不意に俺の方を向くと、 「痛いじゃないの!」 と、なみだを溜めた目で俺を睨み付けた。 睨み付けられた俺はというと、その女の容姿に思わず見惚れてしまっていた。 黒髪を肩と腰の間まで伸ばし、右脇の髪を一掬い、上で束ねている。 そして髪と同じ黒い瞳をしていた。 「何よ、人の顔をじろじろ見てきて」 「あっ、いや悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど」 「……まぁいいわ。今回は特別に許してあげる。睫毛を抜いて遊んでいた私にも、非はあることだしね」 「え」 俺は思わず、言葉を失う。 するとソイツは慌てて腕を組み、そっぽを向いた。 「そ、そんなことどうだっていいじゃない」 俺の中の常識では、まつげを抜くことを、どうでもいいで片付けないぞ。 けれども掘り下げてもこの子が可哀想だし――男は美人と可愛い女の子に弱いのだ――俺は話題を転換することにした。 「ここはどこだ?そもそもお前は誰だ?」 「そういえば私としたことが、何の説明もしてなかったわね」 そしてソイツは思いっきり胸を張っていった。 「死後の世界にようこそ!私は菜那原深琴(ナナハラ ミコト)よ」 こうして、俺の戦いの日々は無情にも幕を開けた。 .
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