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目を閉じながらも、鼻をツンと刺す薬品の匂いを感じた。
先程の暗闇とは違い、閉じている瞳にも光が見える。
ここはどこだ?
閉じていた瞼を、ゆっくりと開ける。
すると僅か20センチの距離。
俺の顔を美少女が覗き込んでいた。
「なななななな!?」
思わず叫びながら、俺は反射的に身を起こす。
けれどもその拍子、
「!」
勢いよく、その少女の額と俺の額がぶつかった。
痛てぇ……
強い疼痛に痛覚を恨みつつ、相手を見る。
ソイツはしばらく額を押さえて悶絶していたが、不意に俺の方を向くと、
「痛いじゃないの!」
と、なみだを溜めた目で俺を睨み付けた。
睨み付けられた俺はというと、その女の容姿に思わず見惚れてしまっていた。
黒髪を肩と腰の間まで伸ばし、右脇の髪を一掬い、上で束ねている。
そして髪と同じ黒い瞳をしていた。
「何よ、人の顔をじろじろ見てきて」
「あっ、いや悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど」
「……まぁいいわ。今回は特別に許してあげる。睫毛を抜いて遊んでいた私にも、非はあることだしね」
「え」
俺は思わず、言葉を失う。
するとソイツは慌てて腕を組み、そっぽを向いた。
「そ、そんなことどうだっていいじゃない」
俺の中の常識では、まつげを抜くことを、どうでもいいで片付けないぞ。
けれども掘り下げてもこの子が可哀想だし――男は美人と可愛い女の子に弱いのだ――俺は話題を転換することにした。
「ここはどこだ?そもそもお前は誰だ?」
「そういえば私としたことが、何の説明もしてなかったわね」
そしてソイツは思いっきり胸を張っていった。
「死後の世界にようこそ!私は菜那原深琴(ナナハラ ミコト)よ」
こうして、俺の戦いの日々は無情にも幕を開けた。
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