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「……死後の世界……?」
「その通り。あなたは死んだのよ。そして此処は、死んだばかりの人間が運ばれてくる病院ってわけ」
少女──菜那原深琴はそう事もなげに言ってのけた。
けれども俺にとっては、そんなに軽いことではなかった。
「死んだ?まさか、そんな馬鹿な!」
「あら、気付いてなかったの?でも此処に来た人の中には、死んだことに気付いてない人もいるから大丈夫。直ぐに分かるわ」
「待てよ、俺は生きてるさ。ほら、体だって動く。それに、ついさっきまで……」
「さっきまで?」
言葉に詰まった俺に、菜那原は訝しげな顔で見てくる。
整った綺麗な顔だったが、そんなことを気にしていられる状態ではなかった。
「…あれ?…さっきまで何してたんだっけ?」
俺の言葉に、深琴は黙った。
そして顔を手で覆った俺に、菜那原は真剣に聞いてきた。
「あんた、まさか記憶がないの?」
俺はうなだれて、ため息をついた。
認めたくないが、認めざるを得ないことだった。
けれども頼れるのはこの、目の前にいる少女だけ。
「……あぁ、何も覚えてない。家族のことや自分の名前でさえもな」
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