一章・死後の世界

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「記憶がないって、お前……」 俺と一緒だ。 その言葉を言おうとし、不機嫌な様子の深琴に遮られた。 「お前じゃないわ。私は菜那原深琴。深琴って呼びなさい」 「はいはい、分かりましたよ」 「何よ、その投げやりな返事は。何なら深琴様って呼んでくれてもいいのよ?」 「すいませんでした」 そう言うと深琴はクスリと笑い、瞳からは哀愁が翳り、元の深い色に戻っていた。 そして俺はまだ信じてさえいないこの世界のことを、色々と聞かされた。 「この世界は、そのまま死後の世界って呼ばれてるの」 「本当にそのままだな」 「私が決めたわけじゃないもの。それでさっきも言った通り、私達は、神の忠実な下僕である天使に狙われてる。天使長のミカエルがトップで、〈絶対的聖光の騎士団〉と呼ばれてるグループが、私達の敵よ」 〈絶対的聖光の騎士団〉……。 俺は心の中で反芻してみた。 「本当はそれだけじゃないのだけど」なんていう、深琴の吐息にのせた呟きは、聞こえない振りをして。 「大袈裟な名前だな。長いし」 「そうね。私達の教団の名前の方が、よっぽどいいわ」 「私達?」 すると深琴は誇らしげにニヤリと笑った。 怪しげと言われればそれまでのような笑い方である。 「そう。私がリーダーで、天使に対抗する為の団体を創ったの」 「深琴にリーダーなんて出来んの?」 「う、うるさいわね!私はちゃんとしたリーダーなんだからねっ!」 さっきから薄々感じてはいたが、なるほど、深琴様はツンデレらしい。 .
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