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「記憶がないって、お前……」
俺と一緒だ。
その言葉を言おうとし、不機嫌な様子の深琴に遮られた。
「お前じゃないわ。私は菜那原深琴。深琴って呼びなさい」
「はいはい、分かりましたよ」
「何よ、その投げやりな返事は。何なら深琴様って呼んでくれてもいいのよ?」
「すいませんでした」
そう言うと深琴はクスリと笑い、瞳からは哀愁が翳り、元の深い色に戻っていた。
そして俺はまだ信じてさえいないこの世界のことを、色々と聞かされた。
「この世界は、そのまま死後の世界って呼ばれてるの」
「本当にそのままだな」
「私が決めたわけじゃないもの。それでさっきも言った通り、私達は、神の忠実な下僕である天使に狙われてる。天使長のミカエルがトップで、〈絶対的聖光の騎士団〉と呼ばれてるグループが、私達の敵よ」
〈絶対的聖光の騎士団〉……。
俺は心の中で反芻してみた。
「本当はそれだけじゃないのだけど」なんていう、深琴の吐息にのせた呟きは、聞こえない振りをして。
「大袈裟な名前だな。長いし」
「そうね。私達の教団の名前の方が、よっぽどいいわ」
「私達?」
すると深琴は誇らしげにニヤリと笑った。
怪しげと言われればそれまでのような笑い方である。
「そう。私がリーダーで、天使に対抗する為の団体を創ったの」
「深琴にリーダーなんて出来んの?」
「う、うるさいわね!私はちゃんとしたリーダーなんだからねっ!」
さっきから薄々感じてはいたが、なるほど、深琴様はツンデレらしい。
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