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「もう23時か…」
和人は眼鏡越しに腕時計を見ながら、自宅へ向かっていた。
和人以外に人がいない訳ではないが、スーツを着た、いかにも仕事帰りですという人間は彼以外にはいなかった。
両親が和人たち2人を残して死んでから、どのくらいの月日が流れたのだろう。
和人の妹である千秋はいつの間にか高校生に、そして和人自身は27歳の会社員になっていた。
そろそろ結婚を考えなければならない歳だが、そんな時間はなく、金もない。第一地味でそんなに実力のない和人に振り向く女なんていない。
ただただ働いて、食費やら千秋の学費やらを稼がなければならない。
それを考えれば、女が寄ってこないのはある意味好都合なのである。
だが、それは決して女に好かれない男にありがちな僻みや嘆きではない。
そう思いたい和人であった。
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