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俺は知っていることを全部話した。
薫が俺の家に来た日のこと、その時から卓己君が重度のシスコンだったこと。
出会ったその日に薫に告白されたこと、次の日に俺が返事をして両想いになったこと。
桐原と美数が俺達を呼び出したこと、そして俺のせいで薫が記憶を失ってしまったかもしれないこと。
それと、薫に近づき過ぎないと決意していたことを。
あまり昔話をするのは好きじゃない。
何であの時強引にでも薫を連れて帰らなかったのか、何で聡と真柳にもついて来てもらわなかったのか。そんな意味の無い後悔をしてしまうから。
後悔した後は決まって、俺のせいで薫は辛い想いをした、俺のせいで薫が傷ついた、そんなネガティブな発想しかできなくなってしまうから。
秀「…これが、俺の知ってる限りの事実です」
薫「…………………」
話し終えた時に気づいた。薫がいつのまにか俺から離れている。
そりゃそうだ。記憶を奪った張本人にいつまでもくっついてる人なんていないだろう。
昔話をしていて気づいた。やっぱり俺は薫に近づいちゃいけないんだ。薫を守るためにも。
秀「…薫、俺達はやっぱりこういう関係になってはいけなかったんですよ。俺が告白しておいて言うのもなんですが」
薫「………そんなことない」
秀「現に、夏休みに薫はあんなことになったんです。俺のせいで」
薫「そんなことない」
秀「俺は、人に好きになってもらう資格が無いんですよ。特に薫相手には」
薫「そんなことない!」
秀「だったら!俺が敬語じゃなくても平気なのか!?」
薫「ッ!平気だよ!」
秀「嘘つくなよ!今明らかにビビったじゃねぇか!」
薫「平気だって言ってるでしょ!」
秀「ビビってる理由を教えてやろうか。俺は以前敬語じゃなかったんだ。薫は昔の俺を思い出して、本能的に俺を拒絶しようとしてんだよ!!」
パンッッ!
言い終えると同時に、俺の視界が90°回転する。
薫にビンタされたと気づくまで、少し時間がかかった。
薫「いい加減にしてよっ!!」
俺は初めて聞いた。
薫がここまで必死に大声をあげるのを。
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