笑ってください

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「未弥!!」 俺は、半ば叫ぶように、最愛の人の名前を呼んだ。 俺のいる廊下のずっと先に、その人が見える。 すると、最愛の人、未弥はゆっくりと俺を見て、これまたゆっくりと俺の前へと歩いて来る。 彼女の表情は“無”だ。 元々無表情で評判の彼女だ。 俺はさほど気にしないが、初めて未弥と話す人は“睨まれているような気がする”と、そう口を揃える。 確かに、未弥は少しつり目で、無表情のまま人をじっと見つめる癖がある。 でもそれは単なる癖で、本人は睨んでいるつもりは更々無いらしい。 誤解されかねないから、直した方が良いとは思うが、でも俺はそんな未弥も含めて惚れている訳で。 そんなことを親友の拓に相談すると、いつも呆れたようにため息を吐かれる。 拓は良い惚気相手だ。 例え拓が俺の話を聞いていなくとも、適当に相槌を打ってくれる。 その適当さが、俺には調度よかった。 「…何?」 いつの間にか、未弥は俺の目の前に立ち、その大きな瞳で俺を捕らえている。 どきんっ 未だに、未弥に見つめられると、胸が高鳴る。 それが、誰に対してでも発動される、未弥の“癖”と言うものだと知っていても。 「…なんでもないよ。  ただ、未弥とこうやって話したかっただけ。」 「……なにそれ。」 俺が笑って言うと、未弥も少し笑った……気がした。 「……れー。」 「ん?ってゆうか、れ・い、ね。」 「…れー。」 「……直す気無いよね。」 未弥は、俺を“れー”と呼ぶ。 玲だと、いつも言っているが、本人は直す気が無いようで、いつになっても“れー”のまま。 別に発音的にはさほど変わらないからいいんだけど。 「…れーは、文化祭…何する?」 未弥に言われて、思い出す。 そういえば…、文化祭があるとかで委員長が話してたような…。 「んー、ごめん未弥。  覚えてない。  …未弥は?」 確か…、ああ!そん時は未弥が外で体育をしてて…。 え?変態じゃないかって? 愛する彼女を目で追わない彼氏が何処にいる! 「…なんでそんなことも覚えてないの。  ………あ、そっか。聞いてないんだ。」 そう言って、呆れたような顔をする未弥。 あら可愛い。 .
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