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ロランがゴルゴーラン砂漠を縦断しゴルゴー海峡の橋のたもと、アルファンの町に着いた時には辺りはすっかり日が暮れて月が半ほどまで上がっていた。
「海峡を渡るのは明日か……。」
そう呟きながら宿に向かい歩き出した。
このアルファンの町には100年以上の歴史を持ち、豊富な海の幸と出来の良いワインが評判の“白鯨亭”と言う旅籠がある。
ロラン自身も二回程立ち寄ったことがある。
宿に入りカウンターに置いてある呼び鈴を鳴らす…
呼び鈴の良く通る澄んだ音色がすっかり消えてしまう前に奥の方からドタドタバタバタと騒がしく一人の男が現れた。
そしてロランの顔を見るなり、「こりゃあまた!ロラン様じゃあねぇですか!!」
「久しぶりだなタル。」
タルと呼ばれたこの”白鯨亭“の亭主はそのままの大声でまくしたてた。
「まあまあ、こんな夜更けにようこそいらっしゃいました。ロラン様におきましてはお変りありませんようで、お陰さまで何とか勘とか商売を続けさせて頂いとる様な次第で……」
ロランは苦笑いしながらタルの神妙な挨拶を遮った。
「すまないが、タルよ…もう少し声を落としてくれないか。今私はあまり目立つ行動はしたくないのだよ。」
「へえ。そうでございますか。分かりやした、どうも田舎もんは慎みってもんを知りませんで…。ところで今日は…御供の方はどちらで?」
背伸びしたりしゃがんだりしながら相変わらずの大声でたずねる。
短い溜め息のあとロランが呟くように答える。
「今日は私一人だけだ。」
「なんとまぁ!!そうでしたか!それはそれは。」
タルの大きな口からはまだまだ色々な言葉か飛び出す事を確信したロランは、急いで今夜の宿と食事が必要なこと・出来るだけ目立ちたくないことを説明した。
「へえ!!任せて下さいまし!」
真剣な表情で大きな太鼓っ腹をポンと叩くと、ロランの少ない荷物をひょいと担ぎ二階の部屋へと案内した。
しかしタルの大きな声はほとんど変わらなかった……。
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