はじまり

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静かだった。   奇妙な静けさに彼は、 思考の泥沼にずくずく落としていた意識をふと浮上させる。   ああいつの間に夜になってたんだと、 ほやりと考えるがしかし、泥と戯れる前の時間帯が朝や昼だったという記憶もなく、 もしかしたらさっきから夜だったかと 沈めた意識を浮上させるまでの時間が酷く曖昧なこの感覚に、鈍い焦燥感を覚える。   奇妙な静けさが続く。   静かすぎるこの風が無い夜は、紫濁色の淡い霧が緩慢に漂い薄気味の悪い色を纏っていた。   どこだろう、ここは   意識が鮮明になるにつれ違和感が足元からじわりじわりと昇り来る。 何かがおかしい。この静けさか、見知らぬこの場所だからか、いや違う。何か何か何か。   なんだ、何か、なに   視覚の違和感に気付く。
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