はじまり

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  無い…っ!   彼は体を強張らせた。 無い、無い。 この薄闇色の夜は自分の周囲以外後も先も この夜とは異質な黒い闇で塗り潰されていた。   鼓動呼吸が耳障りに煩い。 駄目、駄目だ、早く鎮めなくちゃ この静寂を破ってはいけない。   「ねえ」    具体的でなかった悪い予感が目の前に急速に形どられる。   声。 静寂の声。 静寂に融け入る、声。   あああああ、馬鹿げている、この声は、   とっさに、見てはならないと地に落した視線 しかし落としきる瞬間、視界の端にたしかに見えた女。 彼は知っていた、あの声もこの姿も ああ、そんな、彼女が
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