15人が本棚に入れています
本棚に追加
細い腕は、助けを求めるように何度か空をかき、力尽きるように落ちた。
うん、人類史上猫布団で圧死する以上に幸せな死に方があるだろうか?
いや、ない! 反語的表現。
冗談はさておき、せめて骨くらいは拾ってやらねばなるまいて。
それが、最期を看取った者の悲しい運命。
細い指の、俺と比べると小さい手を握り、猫布団から引っ張り出す。
「あぁうぅ~……」
中から現れた少女は藍色のセーラー服を猫の毛まみれにして、目を渦巻き状にする漫画表現を体現する強者だった。
あれ、なんだろう?
見覚えがあるよ?
「けほっ、うぅ、口の中まで毛が入ってきてる~。
あ~、制服も毛だらけだよぉ……」
俺の腕を頼りによろよろと立ち上がり、手で猫の毛を払い始める少女。
その足元には、また大量の猫が体を擦り付けていたりで、あまり効果は上がっていない。
あぁ、これは間違いない。
猫に異常になつかれ、漫画表現を体現できる人間などそうはいまい。
「あ、あの、助けていただきありがとうございます。
挨拶が遅れてごめんなさ……」
はじめて顔をあげた少女が、俺の顔を見て言葉を失う。
細い眉は驚きで上がり、大きな黒瞳は見開かれ、形のいい小さな唇は半開き。
風に、腰まで届く黒髪と、それを首の辺りで束ねる赤い大きなリボンが揺れる。
「クロ、ちゃん……?」
「おぉ、ヒナお久しぶりだぁよ」
人生とは小説よりも奇なるもの。
なんでまた、あの家を忘れるために来たこの町で、俺の元姉に再会しちゃうかねぇ?
最初のコメントを投稿しよう!