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こんなことはいつものこと過ぎて気にも留めていないらしい。
「そうだった、んじゃ下に行くか」
再び騒がしくなった室内から楓と朧と共に出て行く。
「あ、俺ちょっと壱琉さんのところに寄って行くからちょっと待ってて」
総長を辞めると壱琉さんには言ってしまったので訂正しに行かないと。
俺一人、壱琉さんの私室にノックしてから入る。
部屋の主は先ほどと変わらず椅子に座って雑誌を読んでいた。
「んーどうした利光、ちょっと離れただけで俺に会いたくなったか?」
「そんなところです」
壱琉は冗談を否定されなかったことに笑みを浮かべた。だが、何かしらの決心が伝わったらしい。
「で、どうしたんだよ?」
「俺、総長辞めません。これからもよろしくお願いします」
数十分前までは自分の都合で勝手に辞めると言っていたのだ。
考えの浅さに恥ずかしくて赤くなる顔に気付かない振りをして頭を下げる。
「・・・気付けたか?」
「はい、俺は自分のことしか考えていませんでした」
「やっぱ、あいつ等はいい仲間だな」
「壱琉さんにも感謝してますよ」
「おぉ、利光に会えなくなると店に潤いが無くなるからな」
豪快に笑う壱琉に呆れつつも、俺は何も言えなかった。
「俺が居ない間、チームのことは楓に任せました」
下のフロアのメンバーにも伝えて来ますと、壱琉の部屋を後にした。
「お待たせ、じゃ下に行くか」
心に竦んでいた罪悪感のようなものが無くなって、体が楽になった。
「なぁにを話してたのぉー」
「ただの世間話だよ」
「なに嘘ついてんですか?」
「・・・いいだろ別に」
何で楓にはすぐばれるんだか。俺が単純なわけでは無い、絶対に。
楓の勘の良さが動物並みなんだろう。
「眉間に皺がよってるよー」
えいっと、人差し指で眉の間を押し上げられた。
うぅ、爪が当たって地味に痛いんだけど。
「痛てーよ」
「いい気味です」
もしかして考えていることがばれたんだろうか?薄ら怖い視線を楓から向けられ、苦笑いしか出てこなかった。
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