序 章

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  「まっ、八ッ!!」 手を伸ばした先は真っ白な天井だった。 握り締め損なった掌は、情けなく宙を切っただけ。 「そう、だった。夢なんだ・・・」 本当に夢だったのか? あのリアルな水と浮かぶ感覚、そして彼の声。 ・・・重症、だな。 最近はこの手の可笑しな夢を見ることは無かったんだけどな。 アレか?高校受験が終わったからリラックスでもしたのだろうか。 いや、精神面はそこまで軟じゃないはずだ。 似たような夢は時々見るのだが、いつも内容が突拍子も無かったりする。 なぜか、大泣きしたように目を腫らして起床することもしばしば。 寝起きだから仕方ないと、強引な理由を結びつけたりして目は背けてるけど。 ベッドから体を起こして最初に目に入ったのは、チカチカとランプが点灯する俺のケータイ。 開けば画面上に広がる、着信履歴と新着メールの文字。 え、なにコレ。着信37件?メール21通? それも全てここ一時間以内に来た履歴だった。 時間は朝の10時過ぎ。あれ、そういえば今日って用事があった気がする。 ブーッ、ブーッ、 間髪入れずに次の着信がやってきた。 「・・・もしもし?」 『ぁあっ、繋がっ、 恐る恐る着信に出れば、向こう側から叫び声が聞こえた。そして何故だか電話口から数々の大声が。 声が大きすぎて何を言っているのか聞き取れないぞ。 『総長っ、何かあったんですかー?!』 「え、何かって・・・あぁ!すまん、これから行くっ」 向こう側がなにか言い出す前にすぐさま通話を切り、ベッドから這い出す。 そうだった、今日は3ヶ月ぶりに出した召集の日だった。 顔を洗い、髪をチェックしたら服に着替える。必要最低限のものを手に取って家を出た。 春の暖かな日差しの中、目的の場所に向かって走り出す。 そして着いたのが都内某所に位置する開店前のBar【Again】 ここが俺たちEmpressって族の溜まり場になっている。 マスターが元々、Empressの総長だったお陰もあって有難く使わせてもらっている。 《Close》と札が付いているにも関わらず、店の取っ手を外側に引いた。 店内に入れば中には閉店中なんて嘘のような人数が蔓延っていた。その中の何人かは俺が入店して来た事に気付き、軽く頭を下げた。 「総長、ちわっす」 「お久しぶりです」 「上でどんな用件を話し合うんすか?」 と、声をかけられ答えながら奥を目指した。  
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