『溶岩とムカデとビートと雪とお花の話』

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ビートは輪郭をとろっとろに溶かして俺と俺の周りを一個の海みたいにしちゃうけど俺はいつまでも海にならなくて海の中の流れとか水面を跳ねる波です。きっとおじさんとかおねえさんとかお母さんとかきっとお父さんもそんな俺を見て海にならないことにびっくりしてそれでお父さんは俺を殴打殴打したんだっておじさんとお姉さんとおかあさんが言ってて、そうするとじゃあビートに任せるのは俺が脳みそを持ってるとずっと続きますから変なところで諦めてじゃあこのままでいいですって言った。まだ六歳だった、夏。その頃にはビートは鳴り止んで頭の天辺からつま先まで夏なのに氷水みたいに降りてくるものがあったからチルアウトして沈黙沈思黙考。チルアウトしてる間はずっと自分を抱きしめるおべべをおじさんとお姉さんが貸してくれたからギシギシに寝転んで考えることばかりしてて何もすることが無いし出来ない。お姉さんの裸の想像のむずむずが頭蓋骨の中身をぐるんぐるんってする間はビートは止んでしまう。それから二回夏が来るまで鉄と漆喰に囲まれた四角い空間の中に居て鎖は俺と一体化したのだけれどやはり冬の冷え込みが耐え難かったんだ。溶岩はいつまでもぐらぐらと煮えたぎっているのが気に食わないところで、2mもない俺の体のどこかからずうっと沸いてくる灼熱。溶岩の上を這いずり回る三百のムカデは特に眼が開いていない時に散歩を始めるので、この相棒が散歩を始めるとプチプチと溶岩に穴が開いてそれを平らにするのに丸一日かかるのが最大の難点だと思う。それは今この瞬間だってそうだよ。平らにする作業はずっとずっと俺の体の一部でそれは消えることも減ることも無かったからそれは苦痛よりも少し俺は楽しい。
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