パピコに釣られて恋をする

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 梅雨真っ只中の六月。  窓の外には細かい雨が降っていて、教室の中は陰鬱な空気が漂っていた。 「佐久間、明日の試合中止だってな」  チームメイトの弾んだ声で我に返る。  今日は雨の所為でグランドが使えず、室内でも出来る筋トレで部活時間を潰していた。 「いきなり休みって言われも予定ないしさー」  サッカーボールを抱えて、水浸しのグランドを眺めていると、チームメイトが慰めるように肩を叩いてくる。 「贅沢な事言うなよ。好きなこと出来る時間なんて、そうそう無いんだから」 「好きなことねぇ‥‥」  中学からサッカーに打ち込む日々を送っていた所為か、部活のない休日の過ごし方がわからない。  何しようかな、と言いながら、教室の床に寝転ぶと、DVDでも観れば?というチームメイトの声が降ってきた。  翌日。言われた通りレンタルビデオ店へ向かった。『夏はホラーで決まり』という血糊文字のポップを見ながら、友だちに勧められたホラー映画を探す。  初心者は王道ホラーから攻めるべし。  そう言われたので、有名どころを何枚か籠に入れ、棚の上から順にタイトルを目で追った。視線が棚の下まで来た時、ふと、隅に置かれたDVDが気になった。  手に取ってジャケットを見ると、暗い廊下の先に黄色いカッパを来た女の子が写っている。  王道ホラーじゃないのかな、と呟きながら顎に手を当てた瞬間、背後に人の気配がした。 「あの、佐久間先輩ですよね?」  びっくりして振り向くと、制服姿の女の子が三人立っていて、そのうちの一人は見覚えのある顔だった。 「あれ?いつも応援しに来てくれる子だよね?」 「覚えててくれて嬉しいです」  人目も気にせずキャーキャー声を上げる女の子たち。その勢いに圧倒されていたら、部活お休みなんですか?と聞かれたので、引き攣った口元を引き上げた。 「そうだよ、ここまで降られちゃうと部活どころじゃ無いからね」 「早く梅雨が明けてほしいです。先輩がサッカーしてる姿見たいですし」 「俺も梅雨明けが待ち遠しいよ、このまま部活出来ないと参っちゃうし」  そう言いながら、店の外に降る梅雨特有の真っ直ぐな雨を見て、溜め息をひとつ吐いた。  
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