パピコに釣られて恋をする

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「じゃあ、俺はそろそろ帰るね。雨強いから気をつけるんだよ」  持っていたDVDを籠に入れると、俺は女の子たちに手を振ってレジに向かった。  結局ホラー映画ばかり借りてしまったが、夏はホラーで決まり。と書いてあったし、こういう休日もたまには良いかもしれない。  家に帰ってDVDを見始めたのだが、勧められたDVDはどれもビックリ系で、ストーリー性は感じられなかった。  幽霊のクオリティに驚いたのも最初だけ。こんなもんかとだらだら観ているうちに、最後の一枚になった。  これもハズレかな、などと思いながらDVDをデッキにセットして、薄暗い画面とともに作品が始まるのを眺める。  団地へ越してきた母と娘が、少女の霊に遭遇するストーリー。幽霊が映るシーンが少ないにも関わらず、しっかりした構成と、現実にありそうな舞台に惹き込まれた。さっき迄ソファーに寝転がって観ていたのに、気付けば背筋を伸ばして見入っていた。  特に良かったのは、最後のシーンだ。  娘を助ける為にあの世に連れて行かれた母親が、成長した娘と幽霊になって再開する。そこで「ごめんね、一緒に居られなくて」と言い残して消えてしまう。この、他の映画には無い切なさこそジャパニーズホラーだ。  あまりの感動で、俺は一人で観ているにも関わらず、エンドロールに向かって拍手を送った。  月曜日。DVDの余韻が残っていた俺は、親友の一葉を捕まえて、あの作品の素晴らしさを話した。  あのシーンが良かった。この台詞が感動した。身振り手振りで一生懸命伝えたにも関わらず、ホラー映画詳しくないからよくわかんない。と、バッサリ切られてしまった。  一葉はそういうところがある。  周りに興味が無いというか、スルースキルがあるというか、飄々としているように見えても意外と芯があったり。とにかく表現し難いキャラだった。 「知り合いにオカルトオタクがいるから、紹介しよっか?」  落ち込む俺に気を遣ったのかもしれないが、ホラー初心者の俺が、オカルトオタク相手に話しを弾ませる自信はない。 「今は大丈夫、かな‥‥‥‥」 「そっか」  一葉が友だちの話題を出すのは珍しい。  そうは思っても、断った手前つっこんで聞くのは躊躇われた。
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