216人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の昼休み。
俺はDVDを勧めてきた友だちに会う為、B組を訪ねた。
「おーっす!」
入り口で手を上げると、教室の真ん中のグループが、此方に気づいて手を上げる。
「卓人じゃん、どしたー?」
「映画の感想言いに来た」
友だちが屯する席の横には、黒髪ボブの女の子が座っている。参考書を黙々と読んでいるので、俺は出来るだけ音を立てないように、そっと通り過ぎた。
「映画、面白かったろ?」
机に寄りかかった友だちが、自信ありげに聞いてくるので、俺はやんわりと笑顔を作った。
「面白かったっていうか‥‥振り向いちゃダメってタイミングで振り向いたり、躊躇いなくドア開けたり。どう考えてもフラグ踏みすぎでしょ」
「そこで、バァ!って出てきてビックリしたんだろ?それが面白いんじゃん」
お前は何にも分かってない、と言って背中を叩かれる。
普通の人間であれば、怖いものに遭遇したらフラグを立てずに逃げるだろう。そういう点では面白いのかもしれないけど。
「ヒロインも可愛くてさ。怖がる姿とかたまんなかったよね、俺だったら自分を盾にして守るな‥‥うん、絶対守る」
腕を組んで激しく頷く友だちに、可愛かったけどさ‥‥と返した。でも、ストーリーはペラペラだった。という感想は飲み込んだ。
「他にもなんか観た?」
苦笑いする俺に、自称映画オタクの友だちが食い気味に聞いてくる。
俺は、ちょっと昔のホラー映画、と言いながら、胸打たれたラストシーンを思い出した。
「へぇ、なんてやつ?」
「カッパを着た女の子が出て来て‥‥その子は貯水タンクへ落ちて死んだ幽霊なんだけど‥‥」
あんなに感動したのに、肝心の名前が出てこない。
いつの映画?出演者は誰? 首を捻る友だちもまた、ピンと来ていない様子だった。
最初のコメントを投稿しよう!