パピコに釣られて恋をする

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 その日の昼休み。  俺はDVDを勧めてきた友だちに会う為、B組を訪ねた。 「おーっす!」  入り口で手を上げると、教室の真ん中のグループが、此方に気づいて手を上げる。 「卓人(たくと)じゃん、どしたー?」 「映画の感想言いに来た」  友だちが屯する席の横には、黒髪ボブの女の子が座っている。参考書を黙々と読んでいるので、俺は出来るだけ音を立てないように、そっと通り過ぎた。 「映画、面白かったろ?」  机に寄りかかった友だちが、自信ありげに聞いてくるので、俺はやんわりと笑顔を作った。 「面白かったっていうか‥‥振り向いちゃダメってタイミングで振り向いたり、躊躇いなくドア開けたり。どう考えてもフラグ踏みすぎでしょ」 「そこで、バァ!って出てきてビックリしたんだろ?それが面白いんじゃん」  お前は何にも分かってない、と言って背中を叩かれる。  普通の人間であれば、怖いものに遭遇したらフラグを立てずに逃げるだろう。そういう点では面白いのかもしれないけど。 「ヒロインも可愛くてさ。怖がる姿とかたまんなかったよね、俺だったら自分を盾にして守るな‥‥うん、絶対守る」  腕を組んで激しく頷く友だちに、可愛かったけどさ‥‥と返した。でも、ストーリーはペラペラだった。という感想は飲み込んだ。 「他にもなんか観た?」  苦笑いする俺に、自称映画オタクの友だちが食い気味に聞いてくる。  俺は、ちょっと昔のホラー映画、と言いながら、胸打たれたラストシーンを思い出した。 「へぇ、なんてやつ?」 「カッパを着た女の子が出て来て‥‥その子は貯水タンクへ落ちて死んだ幽霊なんだけど‥‥」  あんなに感動したのに、肝心の名前が出てこない。  いつの映画?出演者は誰? 首を捻る友だちもまた、ピンと来ていない様子だった。
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