216人が本棚に入れています
本棚に追加
「ストーリーもしっかりしてて、特にラストが良かったんだよね。お母さんの霊に再会する所がまたさ‥‥」
分からないなら調べれば良いんだと、ポケットからスマホを取り出した。検索画面に『カッパ 女の子 ホラー』と打ち込んだ瞬間、
「それって仄暗い水の底からじゃない?」
と、鈴を転がすような女の子の声がした。
横を向くと、黒髪ボブの女の子が参考書を閉じて此方を見上げている。
それだ!と大声で叫び、あまりの嬉しさで、女の子の机に両手をついてしまった。
「ねぇねぇ、あの最後のシーン覚えてる? お母さんが娘に再開するシーン」
俺は、ぱっつん前髪から覗く大きな瞳を、正面から覗き込む。整った目鼻立ちと、内側に巻かれたショートボブ。しかし陶器のように白い肌の所為か、冷え冷えとした印象を受ける。
馴れ馴れしく話しかけちゃったな、と少し後悔していたら、女の子が薄く色づいた唇を開いた。
「ごめんね、一緒にいられなくてって言うシーンでしょ?あの映画って終始薄暗いのに、あのシーンだけは、母親が座ってた白いベッドのおかげで、ちょっと明るく見えたよね。私もあれを見て救われたなー」
「なるほど、セリフにばかり気を取られてたけど、演出も工夫されていたのか‥‥」
いつの間にか、女の子は参考書をしまっていた。腕を組んで頷く俺の前で、女の子もまたふむふむと相槌を打っている。
「あの母親ってさ、幼い女の子の霊に同情してあの世に行っちゃったけど、きっと娘を庇ったんだろうね」
「たしかに、母親としての強さは感じたな、娘を守ろうとする姿も良かったし」
あのシーンは最高だった、と言って頷き合う俺たちの横で、話しに入れない友だちがポカンとしていた。
「卓人って、桜井さんと知り合いだったの?」
「いや、今日初めて話したよ」
話したのも、ちゃんと見たのも初めてだった。しかし、桜井志音が一葉の大切な幼馴染という情報だけは知っている。
最初のコメントを投稿しよう!