パピコに釣られて恋をする

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「桜井さん、こいつチャラいから気をつけた方が良いよ」  俺を指差して大声で叫ぶ友だちの肩を、俺は慌てて引っ張った。「なに言ってんだよ!俺ぜんぜんチャラくないじゃん!」女の子には紳士的に接するようにしてるし、貰ったラブレターだって、家の引き出しにしまっている。どう考えてもチャラいと言われる要素はないはずだ。 「卓人と言えば、天然女たらしで有名じゃん。そろそろ自覚したらどう? 」  それでも、適当なことばかりベラベラ喋る友だちの横で「そんなんじゃないってば」と唇を尖らせていると、そのやりとりを見ていた桜井が、考えるように人差し指を顎に当てる。 「‥‥‥‥卓人って、もしかして佐久間卓人くん?」 「うん、そうだよー」  俺がそう言うと、桜井は顔を輝かせて、ポンっと手を叩いた。 「ああ、一葉の友だちの佐久間くんね」  どうやら一葉は俺のことを桜井に話しているらしい。脳筋とかバカだとか遅刻魔だとか、余計なことを話していなきゃいいな、と思いながらも、俺は左手を桜井に向かって差し出した。 「初めまして。一葉のの佐久間卓人です。よろしくね」  握手を求められた桜井は、俺の顔と差し出された左手を交互に見ると「‥‥‥‥よろしく」と言ってゆっくり握り返す。一葉という共通の友だちを介して新しい友情が生まれる瞬間だった。 「幸せを噛み締めてるところ悪いんだけど、B組のマドンナと握手するってことは、隠れファンを敵に回すのと同義だから。卓人、気をつけた方がいいよ」  ふと、我に帰って周りを見回すと、B組の男子の顔に露骨な怒りがギラギラと光っていた。  俺は慌てて桜井の手から自分の手を離す。   「なんか殺気を感じるからそろそろ戻るわ‥‥また面白い映画あったら教えてね」  そう言って教室を出ようと歩き出した時、桜井のきちんと整った唇が、優しい形の笑みに変わるのが見えた。 「佐久間くんって映画の趣味良いよね、また話そ? 」  両手をポケットに突っ込んだまま、うん、と頷いてB組を後にする。  教室へ戻りながら、桜井と握手したことを、一葉に伝えようか迷った。でも改まって話す内容でもないし、言ったら言ったで「だから何?」って冷たく返される気もする。どうしようかなー、と散々考えて、結局話すタイミングを逃してしまった。
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