パピコに釣られて恋をする

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 幸か不幸か、一葉と一緒に居ない時に限って桜井とばったり会うようになった。  最初は会釈を返すくらいだったのに、気付けば手を振り合うようになり、立ち話しをする間柄にまで成長した。天気とか、授業とか、他愛のない話しばかりだけど、最初に抱いた冷え冷えとした印象は消え、ごく普通の女の子へと変わっていた。 「佐久間くん、最近ホントよく会うね」  その日は雨が降っていた。  昇降口前の廊下でばったり会った桜井は、友だちと一緒に帰るところだったらしい。  部活動へ向かう生徒たちでごった返す廊下で、桜井の持った赤い傘が一際輝いて見えた。 「確かにそうかも。一週間に四回は会ってる気がする」  行動パターンが一緒なのかな、とか、隣のクラスだから会う頻度が多いだけかな、とか、さまざまな理由を考えていると、桜井の連れていた女の子が、俺たちの顔を不思議そうに見つめている。  話しに入れなくて困ってるのかもしれない、と思って会釈したが、「ど、どうも」と警戒気味に言って、桜井の背後に隠れてしまった。怖い顔はしてないつもりだったけど。 「佐久間くんは部活? 私はこれから予備校なんだけど、土砂降りだから外出るの嫌になっちゃって」  桜井が言うように、昇降口の外は大雨だった。色とりどりの傘を広げた生徒たちが、きゃーきゃー言って水溜りを飛び越えていく。 「一応ね。雨でグランド使えないし、筋トレくらいしか出来ないけど」 「梅雨が明けたら忙しくなると思うから、今やってる筋トレも無駄じゃないよ」  外を眺めながら言った桜井は、雨ばかりで満足に練習が出来ないことにうんざりしている俺の心を見透かしているようだった。 「地味だからって手抜きしたらダメだよね、ちゃんとやんなきゃなー」 「そうそう。夏の準備で梅雨があるように、良いパフォーマンスの為に筋トレがあるのよ」  ピンっと人差し指を立てて、得意げに胸を張られると説得力を感じる。やっぱり頭がいい子は言うことも違う。ふむふむ頷いて感心していると、背後に隠れていた女の子が、何かを知らせるように桜井の肩を叩いた。
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