パピコに釣られて恋をする

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「やばっ!もうこんな時間じゃんっ!じゃあ佐久間くん、部活頑張って」  腕時計に視線を落とした桜井は慌てた様子だった。どうやら予備校の時間が迫っているらしい。引き留めるのも悪いので「うん、桜井さんも予備校頑張って」と手を振りながら部室へ歩き始めると、「ねぇねぇ、佐久間くんといつどうやって仲良くなったの? 教えてよ! 」という女の子の声が聞こえた。そんなに珍しいことかなあと思って数歩進んだ時、「たまたまだよ、それに幼馴染の親友は友だちだから」という、桜井の澄んだ声がする。  俺も同じ事を思っていた。  反射的に振り返ったが、もう二人の姿は無い。なんとなく昇降口まで戻って桜井を探すと、ちょうど赤い傘を広げて歩き出すところだった。桜井が女の子の方を向いた拍子に横顔が見える。優しく細められた目元や、控えめに上がった口角が、梅雨空の下でふんわり光っていた。  筋トレ尽くしだった週の後半。  珍しく曇り予報の日があった。ざっと一ヶ月ぶりの練習試合。グランドが使えず鬱々と過ごしていたが、土曜が練習試合と聞いて、久々にテンションが上がった。しかも相手は強豪校。絶対に勝ち点を上げて筋トレの成果を発揮したい。そう意気込んで臨んだのに後半の接戦からPKに持ち込まれ、俺が一本外したせいで負けてしまった。  ゴールネットからボールが外れた瞬間相手チームが輪になって喜んだ。その様子を呆然と眺める俺に、先輩たちは「練習試合だしそんなに落ち込むな」と言ってくれたが、三年生にとっては最後の夏、負けて良い試合なんかあるわけない。  なのに俺はPKを決められなかった。  チームを勝利に導けないやつが、エースと呼ばれる資格はない。  鬱々とした思考に耽りながら、何気なく寄ったコンビニで雑誌を立ち読みした。  サッカーしか取り柄のない俺からサッカーを引いたら何が残るのだろう。ため息を吐いて視線を上げると、窓から直ぐにでも雨を降らしそうな空が見えた。  早く帰ったほうがいいかな、なんて思ったタイミングで来店を告げるベルが鳴った。
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