パピコに釣られて恋をする

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 店内へ入ってきたのは、紺色のワンピース姿の桜井だった。参考書や教科書がパンパンに入っていそうなトートバッグを肩にかけ、真っ直ぐに雑誌売り場へ歩いて来る。  梅雨時期にも関わらずツルンと纏まった髪や、お人形のように白い肌。  肩と肩が触れ合うほどの距離まで近づいたが、俺の方をまったく見ようとしない。  しばらくすると、「あった!」と小さく呟いた桜井は、花が咲いたように笑って一冊の雑誌を手に取った。優等生で有名な桜井のことだから、さぞ意識高い系の雑誌に違いないと思っていたが、手の中にあったのは有名オカルト雑誌『ムー』だった。つい先日ホラーDVDを観たばかりのオカルト初心者でも名前は知っている。  UFOや心霊から、魔術に世界史。なんでもありのミステリーマガジン。六月号の見出しは『AI超人出現!トランスヒューマン大予告』と書いてある。付録は潜在能力が開花するチャクラ活用シールだ。チャクラが何だか分からないけど。  もしかして、一葉が言っていたオカルトオタクは桜井のことかもしれない。意外な一面に驚いていると、ムーを抱えた桜井が不意にこっちを向いた。 「あれ、うそ、佐久間くん? 」 「気づくの遅いって」  言いながら雑誌を棚に戻す。  驚いたように目を見開いた桜井は、大事そうにムーを抱えたまま、俺の顔をしげしげと眺めた。 「いつからここにいたの?‥‥‥‥って、どうしたのその顔? なんかあった? 」  どの質問から返そうか迷って、なにも言えずにいると、桜井は「ちょ、ちょっと待ってて! 」と言って陳列棚の向こうへ消えた。  こんな日に桜井に会うなんてついていないなー、とぼんやり外を見ていたら、コンビニ袋を下げた桜井が小走りに戻って来る。 「佐久間くん、このあと時間ある?」  そう言ってふふっと笑う桜井と一緒に、俺はコンビニを出ることにした。
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