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桜井は救いようのない俺の話しを、親身になって聞いている。
髪を揺らしながら頷く真剣な瞳。透き通るような白い肌。そんな綺麗な横顔を見ていると、胸がきゅんと痛くなる。
唐突に現れた恋の気配を感じて、いつ?なんで?と焦った。真っ先に思い付いたのは、初めて会った日の事だが、自分から握手を求めておいて、手の感触にやられてしまうとは、つくづく単純な男である。
急に顔が火照ってしまい、パピコを頬に当てて話しを続けた。
「‥‥まぁ、それでチームが負けたんだけどさ」
「佐久間くん何も悪い事してないじゃん」
「悪い事っていうか、俺のミスだし‥‥」
気持ちがバレるまいと平静を装って話していたが、好きな子にダサい話しをしてしまって、もっと最悪な一日になりそうだった。
色んな意味で落ち込む俺の横で、桜井は曇り空を見上げている。
「スポーツってそういうもんじゃない?どれだけ練習したって上手くいかない事もあるよ」
「まぁ‥‥そうだけど‥‥」
「傷ついたってことは頑張ってた証拠じゃん。もちろん筋トレもね?」
桜井はぴょんっとブランコを降り「大丈夫大丈夫、切り替えてこー!」と言って、思いっきり背中を叩いて来た。
予想外を遥かに超える衝撃を受け、パピコが変な所に入ってしまう。ごほごほ咽せながら、華奢な体格の割に力があるなと思った。
桜井は俺を気にも止めず、空のパピコを見つめている。なんて事ない容器の筈なのに、白い手に握られたそれは、不思議な寂しさを感じさせた。
「みんな色々あるよね。楽しい事だけつまんで生きていけたら良いのに、そうもいかないもん」
俺から容器を受け取ると、コンビニ袋にまとめる。笑って話しているが『みんな色々ある』という言葉が胸に引っかかった。
俺が思う桜井は、勉強も運動も出来て可愛くて優しい子で、全てにおいて恵まれている印象しか無い。悩みがあるようには見えないが、女子の人間関係も大変そうだし、ずけずけ踏み込むのも気が引けて、お礼だけ伝えておこうと思った。
「桜井さん、今日はほんとにありがとね」
「佐久間くんが元通りになって良かった。死にそうな顔しててビックリしたけど」
桜井の笑顔を見るたびに一葉の顔が頭を過ぎる。
この気持ちを話そうか、それとも隠し続けるか。もし一葉が桜井を好きだった場合、関係に傷が入るかもしれない。しかし、親友に隠し事をするのも後ろめたい。
色んな事を考えたが、迷うなら話すべきだと思い、桜井と一緒に公園を後にした。
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