パピコに釣られて恋をする

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 佐久間は「という訳だよ」と言って話を締め括ると、気不味そうに視線を逸らした。   「パピコに釣られて惚れたってことね」  あんな安いアイスを貰っただけで好きになるとは何処までも単純な奴だ。的確な感想を述べたと思ったが、佐久間は浮かない顔をしている。 「パピコは確かに嬉しかったけど、他になんかないの?」 「んー‥‥取り敢えず頑張れ。くらいかな」  志音はツンっとしているが、意外と優しいし気遣いも出来る。そういうところが好きになったと言われれば納得出来るし、話しに聞く限りでは二人の雰囲気も悪く無い。佐久間がアプローチすればどうにかなるだろう。  グッドラックという意味を込め親指を立てたが、佐久間は腕を組んで悩んでいる様子だ。 「疑ってる訳じゃ無いんだけど、最終確認させて欲しい」 「最終確認?」 「本当になんとも思ってないんだな?」 「しつこいなぁ‥‥朝も言ったけど、恋愛感情なんか無いよ」  志音とはずっと一緒に居るが、そういう雰囲気になった事は無い。  もはや女子として見ていないのだろう。二人っきりで部屋に居ても、タンクトップにハーフパンツの志音を見ても、不意に身体が触れ合っても、嫌らしい気持ちは微塵も湧かない。家族や男友達と同じ距離感は、これから先も変わらない気がしていた。  教室が暑すぎて窓から身を乗り出していると、佐久間も「あーマジでテストより緊張した」と言って隣の窓から顔を出す。  夏風に髪を靡かせる横顔は清々しくもあり、何故か嬉しそうでもあった。  校舎に響く吹奏楽部のロングホーンを聴いていると、突然佐久間のスマホが鳴り始める。 「鳴ってるよ」  入道雲を眺めながら言うと、佐久間は窓の手摺りに寄りかかってポケットからスマホを取り出した。 「やばい。(れい)ちゃんからだ」 「やばいって、なんかしたの?」 「今日みんなでカラオケ行く約束してたのに、すっかり忘れてた‥‥」 「それは百パーお前が悪いな、早く出た方が身のためじゃない?」  顔面蒼白で頷き、恐る恐るスマホを耳に当てる。 「もしもし‥‥‥うんうん、ごめん。うん、はい、ごめんなさい、ごめん」  三秒に一回のペースで謝る佐久間を横目に、教室へ戻ろうと歩き始めた。
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