それは静かに穏やかに

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「桜井さん」  友だちと笑い合っていた志音が、佐久間の声に反応してコートを見る。 「このフリースローが入ったら、俺と付き合ってください」  急に騒がしい体育館が静まり返った。  告白の文字が頭を巡り、変な汗が頬を伝う。フリースローラインに立った佐久間が、ボールを持ったまま志音を見つめ、志音もまたガラス玉のような瞳で佐久間を見ている。  わぁっと、色めき立つクラスメイトたち。  佐久間のファンらしき女子が冷たい視線を向ける中、志音はマスクから覗く頬を紅潮させ、自分自身を指差した。 「わ、わたし?」 「二年B組の桜井志音さんって言ったら、あなたしかいないでしょ」  クスクスと笑った佐久間は、ボールを床につきながら、志音を真っ直ぐ見やる。 「俺と、付き合ってくれる?」  少女漫画みたいだなあと思いながら、二人を眺めていたら、不意に志音と目が合ってしまった。  目の光が動揺するかのように揺れていて、何か言いたいようにも見える。マスクをしているので口元は伺えない。だから、何を伝えたいのか読み取れない。  いや、本当は志音の気持ちから目を背けたかった。「本当にこれで良いの?」そう聞かれた気がして、俺は小さく頷いた。  「俺を好きでいるより、佐久間と居た方が幸せになれる」そんな思いを視線に乗せて見つめ返した。志音の瞳は数回動くと、蝶が止まるように瞼を閉じる。 「‥‥‥‥はい、私で良ければ」  志音が目を開くと同時に、佐久間はフリースローを放った。安定した軌道を保ったまま、ボールがリングに吸い込まれる。そのまま試合終了のホイッスルが鳴った。ガッツポーズする佐久間に、クラスメイトたちが駆け寄る。 「勝利も桜井さんも手に入れるなんて、お前やるなぁ!」  歓喜に沸くクラスメイトとは対照的に、玲は浮かない顔をしていた。必勝ハチマキを巻いているのに喜べないのは、志音のことを考えているからだろう。
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