それは静かに穏やかに

18/18
前へ
/295ページ
次へ
「忌の神の件が解決するよりも、二人が付き合う方が早かったね」  玲は外した必勝ハチマキをジャージのポケットにしまった。胴上げされる佐久間と、やったね。と、声を掛けられる志音。喜ばしい場面のはずなのに、俺たちは得点板の前でぼんやりしていた。 「俺は二人を応援するよ。志音が忌の神と繋がっていても、佐久間には関係ないことだし」 「うん、佐久間が桜井さんの側にいれば、いい方向に進むよね」  きっと、と付け加えた玲がコートに視線を戻す。そこには、頭を掻きながら左手を差し出す佐久間と、その手を華奢な両手で包み込む志音が居た。ギクシャクした雰囲気を漂わせながらも、それなりに幸せそうな二人を見て、胸のつっかえが少しずつ下に降りて行く。  これで良いんだ。志音は自分を大切に想ってくれる存在に出会ったことで、念を飛ばす必要が無くなる。きっと佐久間なら、志音が想えば想っただけ、もしくはそれ以上に返してくれるだろう。  俺は瞼を閉じて、大きく息を吐いた。  一つの踏ん切りとして、志音との関係性が切り替わる合図として、全ての雑念を吐き切る。 「一葉!玲ちゃん!」  佐久間の声がする。いつもと変わらない、澄んだ声で俺たちを呼んでいる。  もしも、志音が悪い神さまと繋がっていると知ったら、その所為で俺が倒れたんだと知ったら、  佐久間。お前はどうする? 「おーい、一葉」  お前なら俺の代わりに、志音を支えてあげられるだろう。志音が心に抱えた空白のようなものをちゃんと埋めてやってくれ。忌の神と繋がってしまったんなら、こっちに引き戻してやってくれ。  器用な佐久間なら、上手くできるだろ? 「おめでとう佐久間。それに、志音も‥‥親友と幼馴染が付き合うなんて、そんな漫画みたいなことホントにあるんだな」  目を開くと、いつもと変わらない三人が居た。両手を広げて駆け寄ってくる佐久間と、呆れ顔の玲と、口元に手を当ててクスクス笑う志音。  このまま平穏な日常が戻ってくれたら良い。  そんなことを思いながら、渋々両腕を広げて抱きつこうとする佐久間を受け入れてやった。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加