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「忌の神の件が解決するよりも、二人が付き合う方が早かったね」
玲は外した必勝ハチマキをジャージのポケットにしまった。胴上げされる佐久間と、やったね。と、声を掛けられる志音。喜ばしい場面のはずなのに、俺たちは得点板の前でぼんやりしていた。
「俺は二人を応援するよ。志音が忌の神と繋がっていても、佐久間には関係ないことだし」
「うん、佐久間が桜井さんの側にいれば、いい方向に進むよね」
きっと、と付け加えた玲がコートに視線を戻す。そこには、頭を掻きながら左手を差し出す佐久間と、その手を華奢な両手で包み込む志音が居た。ギクシャクした雰囲気を漂わせながらも、それなりに幸せそうな二人を見て、胸のつっかえが少しずつ下に降りて行く。
これで良いんだ。志音は自分を大切に想ってくれる存在に出会ったことで、念を飛ばす必要が無くなる。きっと佐久間なら、志音が想えば想っただけ、もしくはそれ以上に返してくれるだろう。
俺は瞼を閉じて、大きく息を吐いた。
一つの踏ん切りとして、志音との関係性が切り替わる合図として、全ての雑念を吐き切る。
「一葉!玲ちゃん!」
佐久間の声がする。いつもと変わらない、澄んだ声で俺たちを呼んでいる。
もしも、志音が悪い神さまと繋がっていると知ったら、その所為で俺が倒れたんだと知ったら、
佐久間。お前はどうする?
「おーい、一葉」
お前なら俺の代わりに、志音を支えてあげられるだろう。志音が心に抱えた空白のようなものをちゃんと埋めてやってくれ。忌の神と繋がってしまったんなら、こっちに引き戻してやってくれ。
器用な佐久間なら、上手くできるだろ?
「おめでとう佐久間。それに、志音も‥‥親友と幼馴染が付き合うなんて、そんな漫画みたいなことホントにあるんだな」
目を開くと、いつもと変わらない三人が居た。両手を広げて駆け寄ってくる佐久間と、呆れ顔の玲と、口元に手を当ててクスクス笑う志音。
このまま平穏な日常が戻ってくれたら良い。
そんなことを思いながら、渋々両腕を広げて抱きつこうとする佐久間を受け入れてやった。
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