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祭りのあと
一学期を締め括る球技大会に続き、終業式を終えるとあっという間に夏休みが訪れる。
あの日以来、佐久間と志音は二人でいることが多くなり、一方の俺は、寄り道もせず一人で帰るようになった。
一緒に帰ろう。と言って佐久間は俺を誘うけど、二人の邪魔になるような気がして、なんとなく距離を置いてしまう。本当は四人でわいわい帰りたい。でも、二人の時間を奪いたくは無い。そうやって夏休みの約束も取り付けられないうちに、終業式の日を迎えてしまった。
「夏休みだからって、調子に乗り過ぎないように」
教卓に両手を付いた担任が、教室を見回しながら言う。しかしクラスメイトたちは、壁時計をチラチラ見やり、下校時刻を待っているようだった。
既に調子に乗ったクラスメイトたちの中で、佐久間もまた壁時計を見つめている。
横顔だけで言えば、そこらへんの男子生徒と変わらない。髪の毛は短いし、手足は長いし、目元は優しいし。そして学年のマドンナと呼ばれる志音の彼氏である。
「‥‥‥‥佐久間は特別なんだな」
やっぱり他の男子生徒と違ったと気付き、ため息をついて窓の外を眺める。席が窓際だったこともあり、俺の小さな呟きは、通りを走る車のエンジン音が掻き消してくれた。
抜けるように晴れた青空。白いペンキで塗ったような入道雲。視線を上から下に落としていくと、正門が視界に入る。
珍しく開いた門の柱に、白いTシャツ姿の人影が寄り掛かっていた。何故か霞かかったように煙る正門。不思議に思って目を凝らすと、人影がゆらりと動く。
「キサラギさん?」
声が聞こえるはずもないのに、キサラギとおもしき人影が、パッとこちらを見上げた。
病的に白い肌。切長の目元と長髪。唇に咥えた煙草から細い煙が立ちのぼっていた。
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