祭りのあと

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 学校という教育機関で、ましてや正門で、煙草をふかしながらこっちを見ている。  ここは気付かないフリをするのが妥当だ。  そう思った瞬間、キサラギの左手がフッと上がり、そのまま俺を指差した。  煙草を噛んでニィッと笑う表情が、やけに懐かしく感じる。ああいうキサラギの顔を見るのは久しぶりかもしれない。  机に頬杖をつきながら眺めていると、今度は門の影からヌッと黒い塊が現れる。 「三日月‥‥?」  短い足を動かしながら、尻尾を立てた三日月が、開いた門から敷地へ入ろうとする。それを見たキサラギが尻尾を掴んで引っ張ると、手品のように姿を消した。  この人たちは暇なのか?  呆れながらキサラギを見ていると、薄い唇がゆっくり開いた。  そのまま大きく開いて、ともとも取れる口の形。そのまま何かを伝えようと唇を動かす。  俺はさらに目を凝らして口の動きを追った。 「か、ら、だ‥‥だい、じょうぶ?」  そう呟くと、キサラギはうんうんと小刻みに頷く。そういえば退院してから一度も会っていなかった。  大丈夫。そう口パクで伝えたが、キサラギは眉間に皺を寄せて、左手を耳に添える。どうやら伝わらなかったらしい。 「もう大丈夫」  今度は小さな声で呟くと、キサラギは首を横に振り、咥えていた煙草を宙に投げた。正門でポイ捨てとは、なかなかに酷い大人である。軽蔑の視線を向けていると、また左手を耳に添え、は?と馬鹿にした顔で言ってきた。 「だから、もう大丈夫だって!」  声の加減を忘れ、つい大声で言ってしまった。クラスメイトの視線がビリビリと肌に当たる。恐る恐る振り向くと、担任の鋭い視線が俺にトドメを刺した。 「橘、寝ぼけてんのか?」 「すみません。寝ぼけてました」  クラスメイトたちの笑い声を浴びながら、俺は一学期最終日を終えた。
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