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「じゃあねー」と教室に戻ろうとするが、佐久間が電話を掛けながら、肩を掴んでくる。
「うん一緒にいる。えっと、三階の突き当たりのー‥‥」
言い終わる前に、ドアが勢いよく開き「あんたねぇ、どれだけ昇降口で待ってたと思ってんのよ!」と言って小林玲が入ってきた。
かと思うと、綺麗に巻かれた茶色い髪を靡かせ、佐久間の腕を思いっきり掴む。
「あんたが来ないから、みんな先に行っちゃったじゃない!」
「玲ちゃんも先に行けば良かったじゃん。場所はLINE入れといてくれれば分かるし」
「だってLINEしても既読もつかないし、すれ違いになっても困ると思って探しにきたのよ!」
それを聞いた佐久間は「まぁまぁ落ち着いて」とヘラヘラ笑うが、そんな事で怒りが収まるわけもなく、玲から「この馬鹿」と言ってゲンコツを食らっている。
玲はめちゃくちゃ気が強いが、佐久間との会話でも分かるように、既読がつかないだけで探しに来ちゃうような律儀なところもある。
しかし、クラス内ではカースト上位をキープしていて、バッチリ上がったまつ毛や、極限まで短くしたスカートがギャルっぽい。
佐久間とは中学からの付き合いらしく、こういう痴話喧嘩も見慣れていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一葉どこ行くの?」
帰ろうと教室のドアに手を掛けると、焦った玲の声が聞こえる。
「どこ行くのって、話が終わったから帰るんだよ」
「あんたもしかして、一葉誘ってないの!?ちゃんとお願いしたのに!」
玲はどうやら俺をカラオケに誘うよう、佐久間に頼んでいたらしい。しかし、睨みつけられた佐久間は相変わらずヘラヘラ笑っていた。
「一葉、これからカラオケ行こうよ」
それに加え「ほら、今誘ったじゃん」と平然とした顔で言う。しれっとされて怒りが強まった玲は佐久間の頬をつねり始めた。
「今日は用事あるから帰るわ」
俺もしれっと言う。此処に居ても時間の無駄なので更にしれっと外へ出た。
「えっ、来れないの?」
「ごめん、また誘ってよ」
ぱっちりした瞳を伏せる玲を見ながら「じゃあね」と言って教室を後にした。
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