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夏休み開始を告げるチャイムを聞きながら、教科書を鞄に突っ込んでいる。目立つキャラでもないのに怒られ、クラスメイトに笑われた。
本当についてない。
最後の一冊を鞄にしまった時、大丈夫?というキサラギの言葉を思い出す。怒られたのはキサラギの所為だが、あんなふうに気を使われたら憎めない。
「ねぇねぇ、あのカッコいい人誰?ほら、正門のところに居る‥‥」
「え?どこどこ?」
クラスの女子がわぁっと窓際に集まり、正門を指差している。きゃーきゃーと黄色い声を上げる女子たちを見ていたら、そこに混ざっていた玲が振り向いた。
「一葉、キサラギさんが見える気がするけど、気のせいじゃないよね」
「たぶん」
俺がそう言うと、玲は嬉しそうに目を輝かせ、空いた窓から身を乗り出した。
「キサラギさーん!」
とりあえず手のひらで制し、キョトンとした玲を連れて教室を出る。面倒な事態は避けたい一心で、正門に向かって走り出した。
キサラギはいつもそうだ。ふらっと現れかと思うと、厄介な事象に巻き込もうとする。きっと今日も、何か企んでいるに違いない。
そう思っていたのだが、
「一葉、身体は平気か?」
目を丸く開いたキサラギは、俺の両肩を摩りながら言う。
「もうなんともないよ」
「色々悪かったな。俺も言葉足らずだったというか、お前の気持ちを無視して、呪い返しを使ったこと‥‥反省してる」
あの時は状況が理解出来ずに取り乱し、自分の感情をぶつけてしまったが、玲が包み隠さず話してくれたことで、俺の考えは変わった。
当の志音も風邪をひいたような症状はあれど、入院するほどの事態にはなっていない。
つまり、キサラギを含めた駿河七神の判断は、適切だったのだろう。
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