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「じゃじゃーん、七杉神社夏祭りのお知らせでーす」
昼過ぎのかき氷屋に、キサラギの声と扇風機の駆動音が響く。細い指につままれたチラシには、『七杉神社』という、駿河七神が祀られている神社の名称と、『夏祭り』の文字が書かれている。
「久しぶりですよね。七杉神社の夏祭り」
玲はそう言うと、キサラギからチラシを受け取った。
「もうかれこれ十年ぶりかなぁ。管理人の息子が、今年こそはやろうって言い出したらしい。どうせ一迦道の差し金だろう」
「信仰心を集める為に‥‥ですか?」
「うん、そうそう。あとは資金調達の為でもあるな。駅向こうの祭りでも出店するが、それだけじゃ足りないんでね」
煙草に火を付けるキサラギを見た。
他の神社で商売したら、神様同士が喧嘩になりそうだ。
「駅向こうの神社って、あのパワースポットで有名なとこだろ?そんなとこで商売したら、祀られてる神様に怒られるだろ」
「パワースポット?あの神社が?」
キサラギは鼻で笑うと、否定するように左手を振った。
「ないない、だってあの神社空っぽだもん」
七杉神社とは比べ物にならないほどの大きな社殿を構え、お正月には賽銭箱まで長蛇の列が伸びる。パワースポットととしても人気で、縁結びのお守りや、御朱印目当てで、たくさんの参拝者が訪れていた。
「空っぽって‥‥俺、初詣で二千円入れたんですけど」
二千円も入れて何を願ったのか。シュンとする佐久間の背中を、キサラギがぽんぽん叩く。
「来年の初詣は七杉神社へおいで。俺たちがちゃんと恩返しするから」
「‥‥本当ですか?」
「ああ、神さまは嘘つかない」
絶対嘘だろ。そう思い、苦笑しながらコーヒーを飲む。そして、キサラギが何の為に俺たちを店に呼んだのか。この時点で察しがついた。
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