祭りのあと

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「その露店を手伝えってことだろ」  皿の上にこんもり乗ったスナック菓子を眺める。キサラギがお菓子を差し出す時は、後ろめたいことがあるか、頼みたいことがある証拠だ。  店のドアにチラシを貼っていたキサラギは、こちらをちらりと振り返り「うん」と鼻返事をする。 「時給八百円でどうかな」 「八百円ももらえるんですか?」  ハッとした顔で佐久間が呟いた。  他のアルバイトなら、もっともらえるだろう。玲なら分かってくれると思ったので、視線を移したが、 「お金いらないですよ」  と、チョコレートをもぐもぐしながら言う。 「私たちが手伝えば、信仰心になるんですよね?」 「もちろんなるよ」  キサラギは俺の隣へ座り直すと、赤い包みを開きハート型のチョコを取り出した。 「こういう時じゃないと、信仰してもらえないからな」 「みなさんの力になるなら、露店の手伝いでもなんでも、喜んでやりますよ」  玲は明るく言うと、キサラギの手にあったハート型のチョコを、魔法のような早技で消してしまう。  そこまで言われたら断るわけにもいかず、バイト代が欲しかったであろう佐久間は、背中を丸めて項垂れた。 「で、当日はかき氷でも売るの?」  カウンターに鎮座するかき氷機を指差すと、キサラギは「まっさかぁ!」と言って笑う。 「白檀香特製七味唐辛子と、一迦道が仕入れた骨董品を売るんだ。金になるぞ?」 「白檀香さんの七味唐辛子はともかく、一迦道さんの骨董品はいかがなものでしょう?お父さんが買った掛け軸も、いわく付きでしたし‥‥」  玲はそう言って、寒気を覚えたようにぶるぶる身震いした。いわく付きの掛け軸を売り付けるなんて、ろくな神様じゃない。 「骨董品っつうのは、いわくが付いてなんぼだからな。持ち主の念がどれだけついてるかで価値が変わるのさ」  キサラギは笑いながら、新しい煙草を咥えて火を付ける。紙臭い煙が、みるみる店内に広がっていった。  
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