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かき氷屋で夏祭りの話しを聞いた二日後。
俺は商品の搬入作業を手伝わされていた。玲と佐久間は夕方集合なのに、俺だけ午前中から。せめて昼過ぎにしてくれと頼んだが、キサラギは頷いてくれなかった。
「クッソ‥‥」
小さく呟き、真っ青な空を仰ぐ。
炎天下のアスファルトは、弱火にかけたフライパンのように熱い。底の厚い下駄を履いたところで、地面から伝わる熱は容赦なかった。
滴る汗が浴衣の襟元にシミを作り、枯れ草色の生地がどんどん濃くなっていく。
「坊っちゃん、目的地はまだまだ先だぞ?へばってないで根性みせろよ」
隣を歩く薄紅色の浴衣姿の男が、涼しい顔で俺を見る。撫で肩で華奢な印象だが、キサラギと同じくらい背があり、妙なオーラがあった。
威圧感というか威勢の良さというか‥‥
そもそも、赤髪に薄紅色の浴衣というのは常軌を逸している。大きな牡丹が咲いた生地も、チンピラのようだ。
この男は駿河七神の一迦道。
玲の父親にいわく付きの掛け軸を売り付けた張本人である。そして隣を歩く俺は、何故か信楽焼の狸を背負わされている。
一迦道と白檀香が営む店『一迦道商会』へ連れて行かれ。抱っこ紐の要領で、一メートルもある狸を背中に括り付けらた。新手の拷問か。はたまた嫌がらせか。
紙袋を一つ引っ掛けて、悠々と煙草をふかす一迦道に、俺は内心舌打ちした。
「そんなこと言うなら、一迦道さんが背負えば良いだろ」
「ああ、だめだめ。俺はほら、高額商品を持ってっから。襲われた時に両手が空いてないと、戦えないから。ね?」
一迦道はシワの寄った紙袋を見せるが、俺の目には、高額商品が入ってるように見えない。どうせガラクタか、いわく付きの骨董品だろう。
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