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「だいたい、高額商品ってなんなんですか?」
舗装されてない農道の出っ張りに足を取られながら、俺は紙袋を指差した。
「鬼道で拾った石」
「‥‥は?」
呆れて言葉を失うと、
後ろの方から走ってくる足音が聞こえた。それから少しして、
「おい、この岩どうすんだよ!」
砂埃を上げる勢いで、手押し車が横付けされる。真っ先に目に入ったのは、肩で息をするキサラギと、荷台に乗った岩。そして、そこに腰掛ける白檀香だった。
「よぉ一葉。元気そうだな」
「おかげさまで‥‥つぅか、そんなとこに座ってんなら、狸持ってくれよ」
「すまんな。この手押し車は満員でね。他を当たってくれるか?」
久しぶりに会った白檀香は、オリーブ色の浴衣を着て、白い髪をお団子に纏めていた。日差しが白い肌に映って、浴衣の肩や袂にきらきらとした反射があるように思える。髪に挿された向日葵も、生き生きとして見えた。
しかし、俺と目が合ったとたん、白檀香は八重歯を出して不敵な笑みを浮かべる。
「ま、せいぜい頑張れよ」
それを聞いたキサラギが、手押し車から手を離し、滴る汗を浴衣の袂で拭った。
「変な岩も白檀香もここに捨てて行くわ。もう重くて無理」
「おいおいおいおい、岩捨てたら売るもん無くなっちまうだろ」
無言で岩を降ろし始めるキサラギを、一迦道が慌てて止めようとする。どうでも良いが、俺は一刻も早く狸から解放されたい。
「岩買ったところで使い道ないじゃん」
嫌味たっぷりに言うと、一迦道は両手のひらを上に向け、呆れたポーズを返す。
「坊っちゃんはわかってねぇな。この三途の川から拾ってきた岩は、漬物石にもなるし土嚢の代わりにもなる。玄関先に置けば魔除けにだってなるし‥‥とにかく、価値のある岩なんだ」
「一迦道さん、三途の川の岩で漬物つけようって思う人いる?」
「馬鹿正直に伝えてどうすんだよ。三途の川から拾ってきたのは内緒だ。この岩は、神が宿る岩ってことにして、祭りに来たやつに売りつけんだよ」
にやにやとこちらを見る一迦道。
インチキ骨董屋と呼ばれるだけあり、性根が腐っているらしい。これ以上何か言っても意味が無いので、俺は黙って歩き出した。
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