祭りのあと

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 俺たちの視線に気付いたのか、キサラギがほっそりした左手をあげ、指に挟んだ札をひらひら振り、 「こんなに儲かっちゃった」  と言ってペロっと舌を出す。 「そっちはずいぶん暇そうだな。漬け物石も売れてないみたいだし」 「‥‥うるせぇな。今から売れんだよ」  不貞腐れた一迦道の声を聞きながら、ちらりと、七味唐辛子屋を見る。藍色の浴衣を着た佐久間は、若い女性客に七味唐辛子を紹介していた。 「この七味唐辛子、お肌に良い薬草が入っているんですよ。良かったらおひとつどうですか?」  ああ、なるほど。  七味唐辛子屋はイケメンを使って客引きしているらしい。佐久間に話しかけられたお客さんも、キサラギと握手したお客さんも、全員七味唐辛子を買っている。十センチほどの小瓶で二千円は高い気がするが、面白いくらいぽんぽん売れていた。  立地はともかく、メンツが悪いのは納得できる。ルックスが地味な俺と、チンピラのような一迦道。そこに玲が居ても、七味唐辛子屋には勝てそうもない。  俺はゆっくり立ち上がり、夜空に向かって伸びをした。 「暇だから散歩してくる」  そのまま、振り返らずに社殿へ向かう。  手ぶらで行くのもなんだかなぁと思い、途中、あんず飴を三個買った。三日月はこの間チラッと見たが、他の二人は元気にしているだろうか。俺のことを忘れていないだろうか。  石段を上り、参道を抜け、いつもの賽銭箱へ着く。辺りを見回しても、鮮やかな浴衣を着た子供たちがいるだけで、三日月たちの姿はない。 「どこに居るんだろ‥‥」  誰にも聞こえないように、小さな声で呟く。 「鬼道の番人て社殿にいるものじゃないの?」  そもそも、詳しい鬼道の場所は知らされていなかった。「神社を中心に鬼道と呼ばれる道が通っている」三日月はそう言っていたけど、どこにもそれらしきものは見当たらなかった。
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