祭りのあと

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 やがて、雑木林に囲まれた相模辺路の入口とやらに着いた。目の前を往来する奇奇怪怪なあやかしたちは、全員『可』と書かれた通行手形を持っている。入り口には鉄格子の門があり、脇には赤い提灯が下げられている。  ぼんやりと灯りが届くところは、砂利が敷いてあるのが分かるが、その先は闇に沈んでいた。  門の横には赤い着物の貂蝉と、両腕を組む翁が居る。今日は花札の代わりに、三本ほどの刀を携えていた。闇に浮かび上がる翁の面。提灯の灯りに照らされたそれは、不気味ながらも風格を感じさせる。 「はいはい、今夜は終いだよ」  貂蝉が門を閉めようとすると、あやかしたちが排水溝に吸い込まれるようにして、古道の方へ滑り込んで行った。 「貂蝉、久しぶり」  俺があんず飴を見せると、貂蝉は微笑み、あんず飴を受け取って、自分の口に入れた。 「なんだこれ、じゃねぇか」 「最近の祭りはあんずじゃなくて、すももなんだよ。パイナップルとか蜜柑もあるけど」  眉を顰めてすももを齧る貂蝉の横で、翁が俺の方をぼんやり見てる。お面を付けているからという表現は適切じゃない。面に開いた目の部分が、真っ直ぐ此方に向いていた。 「翁の分もあるよ」  差し出したあんず飴を無視して、翁が駆け寄ってくる。ペタペタと草履を鳴らしながら腕を広げたかと思うと、俺の身体をすっぽり包んだ。  最近、男に抱きしめられる事多いな。と思いながら、袴にあんず飴がつかないよう上にあげる。雲の切れ間から、金色に輝く月が顔を出した。 「もしかして、俺のこと心配してくれたの?」  翁はそっと俺の頭に手を添え、自分の肩に押し付ける。優しく髪を撫でられて戸惑ったが、心配する気持ちが痛いくらい伝わってきた。 「一葉、身体はもう平気なのか?」  あんず飴を食べ終えた貂蝉が、火が灯った煙管を咥えながら言うので、翁の肩越しに頷きを返した。
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