祭りのあと

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「もうなんともないよ。呪い返しの件もキサラギさんと和解したし」  身体を離した翁にあんず飴を渡す。  五センチくらいあるを見て、お面の口に入らないと思ったのか、翁は顎の部分に指をかけ、ヒョイっと面を持ち上げた。その拍子に、白い顎のラインと口元が見えたが、あんまりジッと見るのも悪い気がして、貂蝉に視線を戻す。 「お前が無事でいるんなら、言うことはない。だけどな、あたしらは一葉の味方であって、の味方じゃない」 「貂蝉、その件は白檀香に咎められただろう‥‥」  呆れたように目を閉じる三日月の横で、翁はあんず飴を食べるのを止め、刀の柄をぎゅっと握る。その仕草は、貂蝉に同意しているかのように見えた。 「あたしらは人界側のあいつらとは考えが違う。忌の神を招き入れてしまった落とし前は、門番であるあたしらが、ちゃんと付けなきゃいけないのさ」  そう言って貂蝉が指を鳴らすと、何もない空間に通行手形が現れる。『可』の裏には『非』と書かれていて、空中でクルクル回転したのち、手品のように消えた。 「忌の神を捕まえたら、ミンチ肉にして燃やしてやるから、楽しみにしてろ」  小首を傾げてにっこり笑う貂蝉。その横では、あんず飴を食べ終えた翁が激しく頷いている。 「忌の神はミンチにしても良いけど、志音は殺さないでくれよ」 「殺さねぇよ‥‥んなことしたら、あたしの方が白檀香に殺されちまう」  玲の話しに寄れば、貂蝉と死に神は志音を殺す派だったはず。疑いの視線を向けると、赤い振袖がゆらりと揺れ、細い小指が顔の前に来る。 「一葉、約束だ」  自分の小指をフックのようにして、貂蝉の小指に絡ませた。 「何があっても志音を殺さないって、約束出来る?」    それを聞いた貂蝉は、何があっても‥‥と言葉を咀嚼するように呟き、フッと口元を綻ばせる。 「ああ、分かったよ」
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