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どうしてだろう。
三日月も貂蝉も翁も、キサラギたちを避けているように感じる。会わない理由をこじ付けて遠ざけているような‥‥ギクシャクとした雰囲気だった。
もしかしたら、玲が言っていた殺す派と殺さない派の対立が、まだ続いているのだろうか。
俺はボンヤリと賽銭箱の横に座って、夜風に吹かれていた。近くの通りでは、チョコバナナの露店や金魚掬いの店が、夜逃げのように後片付けをしている。
帯に挟んだスマホを取り出すと、時刻は午後七時。あっという間に祭りが終わる時間だった。
学園祭みたいだな、などと片付けに精を出す人々を眺めていたら、缶ジュースを持った手が背後からヌッと現れる。
「お勤めご苦労さん」
振り向くと、背後にしゃがんだ一迦道が、咥え煙草で笑っていた。
「ありがとうございます」
受け取った缶ジュースは、驚くほど冷たくて、表面にポツポツ水滴が浮いていた。どこで買って来たの?と聞きたくなるほど、レトロなクリームソーダのパッケージを見たとき、自分の喉が激しく渇いていたことに気付いた。
「あいつらに会えたか?」
「まぁ、相変わらず元気そうでしたよ」
プシュっとプルタブを引き、クリームソーダを流し込む。甘ったるくて冷たくて、ピリピリとした刺激が喉を刺す。
「そうか」
隣に腰掛けた一迦道が夜空へ煙を吐き出した。
店をサボったことを咎められるかと思いきや、口角を上げて星を眺めている。
「お店手伝わなかったこと、怒らないんですか?」
「俺が怒る?ないないないない、むしろ俺は、坊ちゃんがやつらに会いに行ってくれたこと、感謝してんだ」
「なんすかそれ」
「まぁ、あれだ。忌の神の一件で俺たちもぶつかってな‥‥蟠りとか意地みてぇなもんが邪魔して、壁ができてんだよ」
一迦道は困ったように笑うと、中間管理職も色々大変なの。と言ってため息をついた。
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