祭りのあと

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「神様も意地張るんですね」  骨組みだけになった露店を眺めていると、一迦道は横に流した前髪を掻き上げ、困ったように目元を細める。 「神様だからさ。門番は悪い奴を排除することに命を賭け、人界側は、人間とその心を守る為に命を賭ける。お互い譲れないもんがあるんだよ」 「じゃあ、中間管理職の一迦道さんはどっちでもないってこと?」 「俺は、如月の味方ってだけ。譲れないもんは特にない」  一迦道はそう言うと、大きな手のひらを皿のようにして俺に向ける。その上に缶を乗せるとグビグビ飲んで、軽くなった缶を返してきた。 「そもそも、意地っつうのは人間関係の邪魔をするんだよ。自分の譲れないものの所為で、大事なもんが壊れたら、悲しくないか?友だちとか恋人とか家族とか‥‥意地張って遠ざけたら、絶対後悔する」 「‥‥確かに」 「だろ?あいつらにもそう言ってんだけどなぁ‥‥貂蝉も翁も、全然取り合ってくれないのさ」  その言葉を聞いた瞬間、心がぐらりと動いた。    佐久間と志音の邪魔をしたら悪い。  なんて言い訳をしていたが、これもきっと意地を張っているのと同じだろう。自分もまた変わった関係性に着いて行けず、無意識に壁を張っていたのかもしれない。 「坊っちゃんと会ったことで、二人の気持ちが変わってくれれば良いんだが」 「きっと時間が解決してくれるよ」  両手を後ろについて足を投げ出す一迦道を見ながら、残りのクリームソーダを飲み干した。  貂蝉も翁も心では分かっているけど、上手く表現出来ないのだろう。人数の多い神様を纏めるのも大変だなあと思っていると、一迦道が、そうだ、と呟いて帯の間から何かを取り出した。 「これ、坊っちゃんの分」  渡されたのは、水晶のようなものでできたブレスレットだった。
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