祭りのあと

20/27
前へ
/295ページ
次へ
「これ、なんですか?」  ブレスレットを腕に付けてみた。  水晶のずっしりした重みが、私は高級品です。と主張している気がする。 「それは魔除けの念珠。お嬢とにはもう渡してあるよ」  クマちゃんはきっと佐久間のことだろう。  三人お揃いのブレスレットは、ちょっと恥ずかしい。視線を逸らしたまま、ありがとう。と小さく言った時、志音の顔が頭を過ぎる。 「一迦道さん。このブレスレット、もう一個ある?」 「あ、桜井ちゃんの分なら、もうクマちゃんに託しておいから」  親指を立てて笑う一迦道は、俺の気持ちに気付いていたらしい。三人よりも四人お揃いの方がずっと良い。そう思って夜空を見上げた時、駆け寄って来る足音が聞こえた。 「一葉、早く早く!」  肩で息をする佐久間が、浴衣の袖を振り乱しながら手招きする。一緒に走って来た玲も、慌てた様子でスマホ画面を指差していた。 「八時ぴったりに花火がはじまるから、桜井さんと合流しようよ」  志音は今日、予備校があるからと言って祭りの誘いを断っていた。  みんなで浴衣着てあんず飴食べたかったな。と、四人のグループラインで話していたのを思い出す。 「でも、約束してないじゃん」  俺はそう言ってから、念珠を付けた腕で膝に頬杖を付いた。  祭りに行くのを断られてから、グループラインは沈黙していたはずだ。にも関わらず、玲は俺の腕をグッと掴み、無理矢理立ち上がらせる。 「、会いたいじゃん。会ってブレスレット渡して、四人で花火見たいじゃん。桜井さんだって同じこと思ってるはずだよ」  必死にスマホの時刻を確認する玲の横で、佐久間は念珠を付けた腕を、なんとかレンジャーみたいに、胸の前で構えた。 「花火は八時から。走って予備校まで行けば絶対間に合うでしょ」  腕を掴んでいた玲の手が、気付けば俺の手を握っていた。そのままいつかのように駆け出され、自然と足が前へ進む。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加