三日月が照らす奇妙な夜

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 昇降口の外は蜃気楼が出るほどの暑さだ。  焼け付くコンクリートに一歩踏み出すと、炎天下で待たされていた玲が不憫に思えた。  しかし眉間にシワを寄せる顔や、尖った声色を思い出すと、無事に逃げられて良かったな、と安堵の息が漏れる。 「機嫌の悪いギャルほど怖いものはない、か」  今日イチ良い名言を呟いたあと、真っ青に晴れた空の下、駐輪場へ向かった。自転車に乗って校門をくぐり、すぐ近くの海岸線沿いを進む。  後ろに流れていく海の家の骨組みを眺めながら、もうすぐ海開きか。とか、夏休みは何しようとか、そんなことを考えていた。  いつもと変わらない通学路。  途中、商店街の切間から路地へ曲がると、人のざわめきが急に遠のいていった。普通の通行人のためではないような隘路に、車輪の音だけが響いている。ここを通るのは初めてじゃないが、いつ見ても不気味だった。  道の両脇にはブロック塀や生垣があり、同じような民家が背を向けて建ち、迫り出した屋根が陽射しを遮っている。  しばらく静まり返った道を進むと、木造二階建ての店が見えた。  いい意味で趣きを思わせる屋根には、今にも落ちそうな看板。路地に面した軒先には、かき氷の旗がぶら下がっている。 「相変わらず怪しい店だな」  自転車を止めようとスピードを落とした時、ふと、赤い自転車が目に入った。俺は不審に思いながらも、その自転車の横に自分の自転車を停める。    先客だろうか?  こんな奥まった場所に来るなんて、よほどの物好きかもしれない。  つるんと光る赤い自転車を眺めていると、初めて店に来た日のことを思い出した。  それは遡ること数ヶ月前。  志音の飼い猫を探して、商店街へ来たのが始まりだった。
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