祭りのあと

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「みんな進路決まった?」  玲が手摺りにもたれながら言う。  ぜんぜんだよ。と笑って、俺は大きく伸びをした。進路という言葉を予備校の敷地で聞くのは、とてつもなく高校生っぽいと思う。 「桜井さんは偉いよね。成績も良いし予備校も通ってるし、私も見習わなきゃな」  色とりどりの光をぶち撒けて、花火が空に咲いたあと、しんと静まり返って、黒々とした空が広がる。 「‥‥‥‥予備校、辞めようと思ってるんだ」  その場に居た全員が黙った。  俯く志音の頭上で、大きな菊の花が咲く。 「私ね、ずっと、勉強しないと認めて貰えないと思ってたの。親にも先生にも友だちにもね」  さっきまで空を見ていた俺たちは、いつの間にか、志音だけを見つめていた。 「でも、みんなに会って話して、そうじゃないって気付けたの。みんなは私の成績じゃなくて私を見てくれた‥‥だから、他人に敷かれたレールを進むんじゃなくて、等身大の自分で道を選びたくなったの」 「ずっとそう言ってんだろ、ばか」  そう言って、憑き物が落ちたように笑う志音を睨みつける。大病院の娘だから、後継の兄が死んだから。そんなことで、自分のやりたいことを諦めて欲しくなかった。他人に託された夢を、さも自分の夢のように語って欲しくなかった。俺はずっと、志音に笑っててほしかった。  八寸玉がドンっと打ち上がり、空中で殻を破って咲く。こうやって俺たちも、いつか花を咲かせる為に、悩んだり落ち込んだりして今を過ごしているのだろう。俺はまだ将来の夢も進路も決まってないが、親しい人の夢を聞くのは自分のことのように嬉しい。それだけで十分だ。 「あの時、嘘ついてごめんね」  志音は俺の目を見て言った。  かき氷屋の帰り道のことなんか、もうどうでもいい。今の志音が全てだと思う。 「いつの話ししてんの?」  居心地が悪くなった俺は、手摺りに頬杖を付いて目を閉じた。花火の音に混ざって、ふふっと志音の笑う声がする。
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