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ミンミン———‥‥
庭で油蝉が鳴いている。
学校が無い日々は開放的だったが、退屈だった。こんな感じでぼーっとしていたら、夏休みがあっという間に終わり、二学期が来て冬休みが来て、流されるように大人になってしまうんだろう。
リビングに面した和室でゴロンと転がりながら、なんとなくグループラインを開いた。
『みんなとあんず飴食べたかったな』
という、数日前の志音のラインから沈黙したままだった。涙を流す顔文字が、祭りへ行けなかった悔しさを物語っている。
こうやって寝転がっていると、昨日の花火が壁に浮かび、『日本妖怪大全集』が思い出された。
志音にラインしようと思ったけど、佐久間を抜きにして会うのは忍びない。玲にラインしようと思ったけど、晴海のバイトで忙しいかもしれない。佐久間なら‥‥‥‥
プルルルルッ
リビングで電話のベルが鳴った。そのベルは酷く焦って鳴っているように聞こえる。洗い物をしていた母親が、はいはいと返事をしながら、エプロンで手を拭いて受話器を上げた。
「はい、橘です」
あらお久しぶり。という母親の余所行き声に苛立って、リビングに背を向ける。『かき氷屋行こう』と佐久間にラインを打っていたら、
「え‥‥志音ちゃんが?」
という慌てた声がした。
振り向くと、目を見開いた母親が俺の方を見ている。
「うちには来てませんけど」
俺の中で、花火が白黒になって、志音の笑顔が霞がかって、心臓が速く動き出した。
「警察には?‥‥はい、はい‥‥そうですか。ええ、捜索願いを‥‥」
母親の声はたっぷりの戸惑いに溺れていた。
視界の端から順に世界が止まっていく。
「志音がどうかしたの?」
受話器を置いた母親の手は震えていた。薄く開いた唇はパクパクと動くだけで、何も話さない。テレビのワイドショー番組の声だけが、静まり返ったリビングに響いていた。
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