遊郭の化け猫(番外編)

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 一口茶碗を傾ける。  とろりとした甘さを期待していたが、口内に広がったのは苦味だった。きっと一華が茶葉の分量を間違えたのだろう。  ごほごほと咽せながら、茶の色と同じ深緑の茶碗を置いて、依頼内容を整理した。 「‥‥で、寝屋の化け猫退治と聞いたが、そいつは毎晩現れるのか?」 「いんや、化け猫が出るのは決まって、桔梗が客と寝る時だよ。この間なんか化け猫が暴れ回った所為で行燈に火が燃え移ってな。危うく大火事になるところだった」  黄瀬川は悪気のない顔でそう言うと、煙管盆に灰を落とし、大きなため息をついた。    なぜ桔梗が客を取る時に限って現れるのだろう。桔梗の美しさに魅了された化け猫が邪魔をする為に火をつけた。いや、そもそも、桔梗は遊女であり、他の客と寝るのは当たり前だ。惚れているにせよ、接点があるのならそれぐらい弁えているはず———いち客の俺も。 「お前が早く貰っていればな。ぼさっとしてるから他の客に持ってかれんだよ」  苛立ったような黄瀬川の声に、はっとして顔を上げる。 「もしや、見請けが決まったのか」 「ああ、お前が村に振り回されてる間に、尾張の神さんが痛く気に入って、身請けを申し出たのさ。桔梗は渋っていたがな‥‥」  名の知れた神であれば、信仰する人間から金を集めることなど容易い。桔梗をものにする為に、一体いくら積んだのだろう。考えたところで金も神格もない俺には縁のない話しだった。  火皿から溢れた灰が落ち、着物の膝を汚す。心の内を悟られないよう拭ってみせたが、煙った思考は晴れない。 「明日だ、明日、桔梗は身請けされる」  黄瀬川は刻みを差し出すと、重々しい口調で言った。俺の心はその声に圧を感じる。  お前はそれで良いのか?後悔しないか?そう言われている気がして、受け取った刻みを詰めながら、情けなく笑った。 「めでたい事じゃないか。そこらのろくでなしに買われるより、ずっと幸せだろう」
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